『介護保険制度の実績と課題』 ・・・これでいいのか!介護保険見直し・・・
2000年4月に始まった介護保険制度が今年4月に見直しされ、利用者はサービスカットなどの問題に直面しています。そこで、ネットワーク横浜は、市民事業として介護福祉の現場で働いているネットワーク横浜のメンバーによる、介護の現場から見た福祉の現状と課題について座談会を持ちました。
参加者
藤井皆子
ネット・港南副代表/家事・介護の
市民事業準備会代表として港南区で
の設立に向けて活動中
中村久子
ネット・にし代表/ケアマネージ
ャーとして介護保険のプラン作成
に当たる。神奈川ワーカーズ・コ
レクティブ連合会前代表
関 すみえ
ネット・保土ヶ谷代表/家事・介
護の市民事業「ゆいまある」を設立。
ヘルパーとして活動中
司 会 杉山典子 横浜市議/神奈川区選出
■見直しによる現場でのサービスの後退!
司会 介護保険制度は、それまでの行政が決める措置型から利用者が選択できる福祉へ、また、女性が中心に担ってきた家族による介護からの社会化を柱に始まりました。5年を経て制度が定着し、その実績や効果、課題も見えてきたと思いますが、4月からの制度見直しによって、現場ではどんな影響が見られますか。
藤井 今回の見直しでホームへルパーの生活支援に当てられる時間が減らされました。例えば、2時間のエコノミー時間が1.5時間となり、これまで保険利用でカバーできていた要介護度の高い1人暮らしの方に、保険が使えない事例もあり、それで私たちのところに、保険外の部分を一時間分でもカバーしてもらえないかという話が持ち込まれてきています。
杉山 エコノミー時間って、その人にとって最低限必要な時間なのか、少し贅沢な時間なのか、ある程度負担をしてでも主体的な生活を営むための時間なのか。また、単にサービスの引き下げになっているのか、見直しが本当に適正であるかどうかの鍵だと思うのですが・・・。
藤井 適正な判断かどうか良く判りませんが、その方は車椅子で介助が無いと動けず、連れ合いの方が働きに出ていて1人でいる状態が2時間続く方です。そのような方が、万が一車椅子がひっくり返った場合にも、30分で発見できるよ、という制度なのです。でも、万が一に備えて利用者は不安が多いと思います。
中村 サービスとサービスの間を2時間空けなければならないルールって、前からある?
藤井 その時間を埋めてきたのが、私たち市民事業の訪問看護や入浴サービスなどでした。私たちから見れば、ちょうどうまくいっていたところにしわ寄せが来た感じです。また、
見直しでホームへルパーの生活支援に当てられる時間が減らされ、そのため介護保険が使えないサービスの依頼が、私たちワーカーズ・コレクティブに増えています。
中村 私たちのワーカーズ・コレクティブは、それまでヘルパーの派遣の平均が2時間でした。ある大手企業や某協会など3時間以上でないと受付けなかったところも見られましたが、私たちは、1時間半でも30分でも利用者が必要なときには行っていました。それが見直しで全部一時間半にシフトされて、30分に価値があったのに。それが無駄であると合理的に切れるものではないと思います。
関 私の事業所は、件数自体は多くないのですが、他の事業所から回ってくる生活支援は月に何回まで、1回一時間半とか決められています。それで、今までは食事作りしていたのを配食サービスに頼むとか、残りの30分をオプションでつけるのかといった問題が出ています。ケアセンターなどを回っていると、お弁当のサービスがあればいいのになぁと言われます。その辺はいろんなサービスを組み合わせればいいのか、人によって違うのかなと思います。
■介護保険の評価できる点
司会 介護保険制度が実施されて、評価できる点もあると思いますが?
中村 90歳代の一人暮らしの方が「本当にいい時代になった」と言っています。確かに誰でも介護サービスを利用でき、介護が家族だけの負担でなくなったことは良かったのではないでしょうか。ただ、財源不足のために利用に制限がかかって非常に使いにくい状況になっています。利用者主権の理念が後退し、給付の不足にも影響しています。
司会 私は5年間で少し変わったかなって思っていますが、利用者側も厳しくなってきていると同時に、提供者側も対応を迫られている面があるのではないですか。
中村 提供者側で言えば、書類が増えて本当にひどい状況です。計画を立て会議を開いて評価しあうことが必要だったのですが、4月以降は毎月記録を残さなければいけなくなり、そのことに終始して現場を回る時間が少なくなってしまいました。それと全てが契約で何でも判子、判子となって大変です。そのあたりの説明と理解をしてもらうことに現場はエネルギーを使ってしまっています。
藤井 現場って、ケアマネージャーとしての仕事をしているときだけを言うわけではないのですね? 書類等は、一般の人たちが事業者選びをする時に使うこともあるわけですか。
中村 ケアマネだけでなく、訪問介護とか、介護系のサービスを提供するために必要な場合とか、そのためにはちゃんと記録がなければいけないのですが、ペーパーの行ったりきたりが増えています。その管理や整理を考えると、介護保険の財源が厳しいからできるだけ利用させないようにするためと思えてしまう。またサービスの質を高めて管理するとなると、専門性の部分にもお金がかかります。どちらかというと違うほうにお金もエネルギーも使わなければならない状況です。
■「地域主体」のサービスをどう見るか
司会 話が戻りますが、生活支援に最低限必要な時間なのに削られたのか、または、個人負担がやむを得ないプラスアルファの時間だったのかが、制度見直しを評価する鍵だと思いますが・・・
中村 そもそも国にお金がないからお金を出し合って、たすけあいですよって介護保険がスタートしたわけですね。それが、財源がパンクしそうだからと見直すのは、人間の尊厳を大事にすることより、サービスを削る方向に動いています。見直しの柱の一つが、予防介護の拠点として、「地域包括支援センターを整備する」とのことですが、介護予防に認定された人への対応ができていません。見直しから半年経ちましたが、めざすことと現実のギャップが目立ちますね。
関 私たちワーカーズ・コレクティブは、もともと「地域主体」で、生活支援が必要な利用者の立場でサービスを提供してきました。ですから「制度に人が合わせなければならない」ような介護保険には限界を感じてきました。今回の見直しで、ますますその実態が見えてきましたので、何とかしたいですね。
中村 今、「ケアマネ難民」なんていう事態も発生しています。要介護1でサービスをうけていたのに要支援2に認定が下がった人や4月以降認定された人は、予防型のケアプランを立ててくれるケアマネージャーが見つけられずにたいへん困っています。
司会 でも、介護保険がここまできたのは企業の参入があったからで、地域主体だけではニーズに応えきれなかったのではないですか。そこで高齢化率が30%を超える今後、介護保険を軸に企業や地域・市民による「地域主体」のサービスをどうつくっていくかが重要だと思いますが、どう考えますか?
関 横浜でも介護保険開始時に比べて、利用者は約2倍、事業所も増えました。しかし、ガイドヘルパー事業などをみても委託料が下がると撤退してしまいますよ。
中村 確かに、福祉サービスは市場価値だけではかるべきではないと思いますね。
司会 福祉がビジネス市場になってサービス量も増えた。繰り返しますが、財源不足のなか、地域主体のサービスの拡充こそが地域福祉を豊かにする鍵になる。そのために、自治体も市民も含めて、必要なことをやらなければならない時代に入っているという気がしますね。
中村 食事サービスでいえば、利用者は65歳から90歳、100歳の方もいる、ご飯の量もワンパターンでは無理です。ワーカーズ・コレクティブなどの市民事業なら、利用者の求めるものに近いものが提供できます。でも、経済効率が優先だとそれは難しくなる。
司会 しかし、介護保険がここまで拡がってきた背景には、大企業の業者がサービスを作ってきた背景があり、地域主体って言い切ってしまった場合、はたして応えきれるのか。地域主体はキーワードであっても、どうやって介護保険制度と結びつけて実現してゆくのか、比率で言うと3:7という話もあり、税金を使って住民が望むところに回す制度ですから… その辺はどうですか。
中村 サービスのニーズに対して供給が足りないといわれていますが、何とかなってきた。企業が入ってきたっていうのもあった。でも、福祉がシルバービジネスで何兆円の市場とか言っていますが、そこがそもそもおかしい。福祉サービスの提供は、市場の価値とは違う部分で行なうべきです。そのあたりの丁寧な議論が殆ど無いままに企業が入ってきている。ちゃんと道徳観を持った企業ならよいのですけれど、きちんとした検証もせず、悪いところが出てきたらどんどん取り締まるっていうと萎縮してしまうこともあるのでは。企業ももちろん必要。だけど、公的な制度の中で地域主体の力がどれだけ出せるか、しっかり位置づけないといけないのでは思います。
藤井 横浜でも在宅福祉の事業所はかなり増え、利用者も約2倍、デイサービスを利用する人も1.9倍ぐらいに増えています。それは事業者の参入が大きいですね。しかし、保育サービスなど儲からなくなるといつでも撤退してしまう。お弁当だって、価格が下がったとなればやらないことになる。私たちが同じようにできますかっていっても、儲かる・儲からないの話になれば、企業の論理が優先するのだと思います。
■「地域密着」より「地域主体」型が必要!
司会 財源も限られてきている中で、地域主体のサービスをどう膨らませてゆくか。そのために自治体も市民も含めて適切なことをやる時代に入ってくる気がしますが。
藤井 今、福祉クラブでも一部やっていますけれど、儲けという見方をしたら本当に厳しいと思います。
中村 結局、税金の補助を得て委託でやっている人も、日曜はやりません。入り組んだ路地の奥に一食だけ届けるのも、今までは税金でやっているところに頼んでいた。それが断られたからと私たちに話をもってくる人もいます。
司会 全部法人に委託ではなく、日曜はボランティアという方法もあるのではないでしょうか。
藤井 「日曜は断る」ような企業などにだけ、税金が補助金、委託料として投入されるわけですか?
司会 もちろん、「市民を安く使おう」という発想ではだめですね。すべての事業ではなく、お隣さん感覚でやれることもあるのではないでしょうか。
関 私の事業所では、介護保険の利用者はわずか3人、あとは介護保険外が25件、おたがいさまの福祉をやっているのが25件。ですから介護保険で潤うことはありませんが、この3件でもなければ事務所を構えての活動はできません。それ以外に子育て支援や、認定を受けてない方とか、障害児の下校時の支援など。年齢的には65歳以上が14人、それ以下が14人。たかだか28件ですが、それでも半分は若年層の子育て支援、地域の女性の保育支援、あとは病院で病児保育を一軒です。枠が小さいので、病時保育とか病後児保育は、事業所のお金からすると本当に大変ですけれども。
司会 たすけあいの制度ができているってことですよね。地域密着という視点からはどうですか。
関 やはり地域で必要とされるサービスをつくってゆくしかないのではと思います。もともと地域密着型を目指してきたわけですから、事業所として成り立つやり方や援助が必要だと思いますが。
中村 今回の介護保険の見直しが本当に地域密着型を目指しているのか一寸疑問ですが、地域保健支援センターで、介護予防のために回った人たちを雇おうとしたら、ちょっと待ってくださいって言われる。人数で 仕組みをつくっておいて、対応ができて無いとしたら、地域密着と言っていいのかって思いますが。
関 地域密着は、介護保険の始まる前から言われていました。福祉に対する先進的な取り組みをしてきた自治体が地域密着型という絵を描いたものに当てはめ、保健師とかケアマネージャーとかを少人数で編成して始まったのです。しかし、実際はまだまだ地域密着型にできて無い。ケアマネージャーだって何件までしかケアプランをもてないことになると、これからの生きるためのプランをつくってもらおうとしても、待ってくださいといわれ困るわけです。私たちは地域密着というより、地域主体でやってきました。厚生省の人たちは、地域の人たちが地域主体でやってきたことを地域密着型と称しているだけで、そこにやっぱり無理があると思います。
司会 地域密着ではなく地域主体と言うのは凄い鍵だと思われますね。
中村 ですから、地域のニーズにあったことを地域の力を生かす。空き家の利用とか、商店街の協力だとか、地域にあるものを生かしてやるのは地域主体なわけですね。密着型って、上からはめ込むようにしたこと自体に無理があり、マンパワーの部分でもミスマッチが起きて「ケアマネ難民」なんて事態が発生しているのだと思うのです。
司会 ニーズは出ていてそれが膨らみすぎて対応しきれない。そこで地域を活用するっていうことになるのですが、それが節減の動きにしかならないこともある。要するに安く使おうっていう発想しかない。厚生労働省が描いた絵の中には地域再生とかもありますが、経費節減のための地域主体では無いはずです。
藤井 最近、自治体などがよくやっているのが事業所とは違う形ですが、配食サービスを月に一回とかだけ、地域のお年寄りを呼んでやったりしています。
関 社会福祉協会からお金が出てるのですよ。
藤井 そうなのですが、それを地域の活動として出来れば一番いいですよね。たとえば「あのおじいさんは出てこないから引っ張ってこようよ」とか、地域でどんな人がいるのかわかっている。事業所ではそれは見えないから、ニーズがないと言って終わってしまう。そこのところこそ、地域がやる意味だと思います。
■地域の資源を活かした福祉サービスの充実を!
司会 中には介護保険の認定を受けている人もいて、財政的な支えになるといいですね。そうすれば事業者が経費を全部保障しなくてもいいのかなと思います。
中村 ソフトの部分は、意識ある市民がどんどん増えているし、団塊の世代の人たちが、地域にたくさん戻ってくればいろいろできると思います。ただ、ハードの部分で大変なのが家賃です。地域に必要なサービスを自分達で作って行こうとすると多少のインフラが必要で、集うところや、弁当だって厨房の設備が必要となる。商店街の空き家利用とか、大型マンションの開発の時には一階部分をコミュニティのスペースに当てるようなことを義務付けられたらいいなと思います。そこに人材活用を組み合わせれば、もう少し豊な地域がはぐくめるかなと思います。
藤井 フランスでは公団のような大きな建物には、何割かを地域のためのスペースとして使う決まりがあります。誰もが必要なサービスを受けられる制度として、介護保険を維持するためには、「地域包括支援センター」のような拠点づくりを柔軟にすすめることがだいじですね。たとえば空き家の利用、商店街の協力といった地域の資源を活かしてやることが必要なのではないでしょうか。
司会 地区センターなんかで一番利用頻度が低いのは調理室ですね。
中村 いろいろ利用しづらいようになっている。
関 お玉いくつ箸いくつって、全部数えなきゃいけないんだもの。
司会 その辺を緩和して活用する手もありますね。ハードをどう運用するかが問題です。
関 小学校も休日、給食の調理室なんかを昼食作りに使わせてもらったりとか。
中村 ともかく今回の制度改正には、利用者側の視点が何にもないし、事業者の意見も入っていません。あくまで国の側からの見直しです。
司会 学校も含めたさまざまな施設の活用を、地域・市民の力で膨らませることが大事ですね。私たちネットワーク横浜は、こういった「地域主体」をどれだけ財源の配分や制度に反映させられるか。この課題に取り組むために、利用者や事業の現場と手を携えて、政策を提案していきたいと思います。
(文責:ネット横浜広報室)